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東京高等裁判所 昭和63年(ネ)1431号 判決

控訴人 エトリジャパン株式会社

右代表者代表取締役 伊勢孝雄

右訴訟代理人弁護士 福井富雄

同 竹内卓郎

被控訴人 株式会社コンドー

右代表者代表取締役 野村茂

〈ほか二名〉

右三名訴訟代理人弁護士 水田耕一

同 石角完爾

同 渡邉光誠

同 中野通明

同 鈴岡正

同 井上謙介

同 玉木賢明

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

「1 原判決を取り消す。2 被控訴人らと控訴人との間の静岡地方裁判所昭和五九年(ヨ)第四六〇号不動産仮差押申請事件について同年一二月二六日に、同裁判所同年(ヨ)第四六七号動産仮差押申請事件について昭和六〇年一月一二日に、同裁判所昭和六一年(ヨ)第三二三号債権仮差押申請事件について同年一一月一〇日に、それぞれ同裁判所がした仮差押決定はいずれもこれを取り消し、被控訴人らの右各仮差押申請をいずれも却下する。3 訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人らの負担とする。」との判決及び右2項、3項について仮執行の宣言。

二  被控訴人ら

主文同旨の判決。

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、原判決第二二丁裏第七行目より第二八丁裏三行目までを次のとおり改めるほか、原判決事実摘示記載のとおりであるから、これを引用する。

C 実体関係について

(被保全権利)

1  被控訴人らの主張1の事実は認める。

2  同2の事実について

(一) 同(一)のうち、控訴人及びエトリS・Aが、被控訴人ら主張のころ、その取引先である東亜金属工業及びTDKに対し、被控訴人ら主張の「御知らせ」と題する書面を郵送したこと、その書面には、被控訴人ら主張のとおりの記載があることは認めるが、その余の事実は否認ないし争う。右書面において、控訴人が問題としたのは、被控訴人らが六月契約に反し、ライセンス契約解消後も長期に亘り、被控訴人コンドーがライセンス契約期間中に製造したものと思われる大量のライセンス製品を、国内、国外で販売していた事実についてである。控訴人は、「御知らせ」の記載については特別の注意を払い、意識的に、明確に確認できない製造行為についての言及をさけ、明確に確認できた右製品の販売行為に限定し、これがエトリS・Aとの合意に反したものであるとの事実を指摘したのである。

(二) 同(二)のうち、控訴人及びエトリS・Aが、昭和五九年八月(四月ではない)から同年一〇月にかけて、安藤電気外六社に対し、口頭又は電話で、被控訴人コンドーの製品及びその販売について、エトリ側の見解を述べたことは認めるが、その余の事実は否認する。ここでも、控訴人が問題としたのは、前項と同様、被控訴人らが、ライセンス契約期間中に同契約に基づいて製造したと思われるライセンス製品の販売行為についてである。また、控訴人の社員が仮りに(二)ロ・ハに主張されているような趣旨の陳述をしたとしても、ロについては、事実として通産省による行政指導があり、これに答えて被控訴人ミネベアの社長がファンのデザインを変える旨意向表明していたことから、被控訴人らはエトリ製品のコピーと考えられる製品は作らなくなるのではないかとの見通しを述べただけであり、ハについては、既にコルサコフ鑑定において最終報告書(疎乙第三六号証)が提出され、右報告書には被控訴人らによる契約違反等の事実が詳細に認定されていたことを踏まえた、裁判についての控訴人側の主観的な見通しを述べたものであって、いずれも事実に反するものではない。

(三) 同(三)のうち、控訴人及びエトリS・Aが、被控訴人ら主張のころ新電元工業に対し、被控訴人ら主張の事情説明書を提示したこと、その書面には、被控訴人ら主張のとおりの記載があることは認めるが、その余の事実は否認ないし争う。ここで控訴人が問題としたのは、被控訴人らが、六月契約に違反し、ライセンス契約解消後もエトリS・Aのデザイン、ノウハウを使用したコピー製品を製造し、販売している行為についてであり、右事情説明書では、特許権の不正使用については全く言及していない。また、右事情説明書において指摘した技術報告書とは、証拠として裁判所に提出されたコルサコフ鑑定書(疎乙第三六号証)を指すものであり、右鑑定書では、「ミネベア等の製品はエトリ製品の明白なコピーであり、当事者の契約に違反している」と断定しているのであるから、右事情説明書に「既に、裁判所によって選任された者を含む最高レベルの技術的権威が、いくつかの技術報告書を作成しており、これらの報告書は、ミネベア等が、エトリの特許、ノウハウおよびデザインを使用しているとしております。」と記載したことは事実に即したことである。

(四) 同(四)の事実は認める。

文書の記載内容が事実に反するものでないことは、新製品と称するもののカタログに旧製品の写真を掲載していること、及びコルサコフ鑑定人の報告書(疎乙第二三号証)によって明らかである。

3  控訴人が陳述流布した事実はすべて真実である。

(一) 特許・デザイン・ノウハウについて

(1) 被控訴人らの主張(一)(1)ないし(5)の事実は、いずれも否認ないし争う。

控訴人が陳述流布した内容は、要するに「被控訴人らは、ライセンス契約解消後も、同契約期間中に同契約に基づいて製造したライセンス製品をエトリS・Aの承諾を得ることなく販売し、あるいは、右契約解消後も、エトリS・Aのデザイン、ノウハウ等を使用した製品を製造・販売しているものであり、被控訴人らの右各行為はいずれも六月契約に違反している。」旨であるところ、被控訴人らは、ライセンス契約解消後も、同契約期間中に同契約に基づいて被控訴人コンドーが製造したライセンス製品を、エトリS・Aの承諾を得ることなく、販売していたものであり、また、被控訴人コンドーがエトリS・Aとのライセンス契約解消後、すなわち、昭和五八年一一月一日以降に製造したファンモータは、デザインにおいて、ライセンス製品と同一のものであるから、エトリS・Aのデザインを使用した製品ということができ、それらはまた、東京契約及びパリ契約の存続期間中被控訴人コンドーに書面で提供されたエトリS・Aのノウハウを使用して製造されたものである。したがって、前記陳述流布した内容はいずれの点においても真実に合致するものである。

(二) 通産省の行政指導について

被控訴人らの主張(二)の事実は否認する。

エトリS・Aが特許権等を有するファンモータについての、被控訴人らの特に国外における宣伝、販売活動は、あまりにも露骨かつ信義誠実の原則にも反する行動であったので、両当事者間の紛争は、昭和五九年七月のフランス産業大臣ファビウスの来日以後、両国間の国際問題に発展し、紛争の解決に向けて日本通産省、フランス産業省、在日フランス大使館が関与することとなった。同年一〇月にはフランス産業大臣クレッソン女史も来日し、その折にも本件が両国政府間の問題としてとりあげられている。しかし、両国政府当事者の努力は、被控訴人側の不誠実な態度のため遂に不成功に終わった。このような折衝の過程で、通産省は、被控訴人ミネベア側に対し、「エトリ」ファンと同様のファンモータの製造を中止することを内容とする行政指導を出している。

したがって、控訴人の陳述流布した内容は真実に合致するものである。

(三) 裁判の状況について

被控訴人らの主張(三)の事実は否認する。

エトリS・Aは、被控訴人らの製造販売するファンモータと、エトリS・Aが製造販売するファンモータとの同一性を技術的見地から検討するため、昭和五八年六月ころ、フランス国ナンテール商事裁判所に鑑定人の選任を求め、同裁判所は、この要求を認めて、ヨーロッパ特許庁控訴裁判所会長であるジョージ・コルサコフを鑑定人に任命した。同鑑定人は、ライセンス契約期間中に「コンドー」によって製造された数種類のファンモータと期間満了後にコンドー側が製造したファンモータとを詳細に比較検討し、鑑定書を作成して同裁判所に提出した。この鑑定書において、同鑑定人は、ライセンス契約終了後にコンドー側が製造したファンモータは、「エトリS・A」が「コンドー」に与えた知識・情報を使用したエトリ製品のコピーであると断定している。鑑定人の右指摘は、いずれも詳細な調査、分析の結果によるもので、極めて信頼度の高いものである。したがって、控訴人が右鑑定書に言及して新電元工業や通産省課長に述べたことは何ら事実に反するものではない。

4  被控訴人らの主張4の事実は否認する。

5  同5の事実は否認する。

6  同6の主張は争う。

(保全の必要性)

7 同7の事実は否認ないし争う。

第三疎明関係《省略》

理由

A  当事者及び従前の契約関係について

被控訴人らの主張1ないし4の事実は、すべて当事者間に争いがない。

B  仮差押異議申立の拒否について

被控訴人らは、「本件各仮差押申請事件の被保全権利は、被控訴人らの控訴人に対する損害賠償請求権であり、その存否をめぐる紛争は、右両者を契約当事者とする六月契約の第六項に定める紛争に該当するものである。したがって、右紛争は、同項の約旨に従い、国際商業会議所の規則に従って行われる仲裁によって解決されるべきものであるところ、右国際商業会議所の商事紛争仲裁規則第八条第五項の規定によれば、保全処分を所轄の司法裁判所に申請し、これを実行することは許容されるが、これに対する異議、取消申立等は許されないのであるから、控訴人がした本件各仮差押決定に対する異議申立は、いずれも仲裁合意に反し不適法である。」と主張する。

しかしながら、被控訴人ミネベア、被控訴人コンドー及び小林信近と、エトリS・A、堀部成司及びテイサン株式会社との間で、昭和五八年六月七日、いわゆる「六月契約」が締結されたこと、控訴人が右六月契約締結後に設立された会社であることは当事者間に争いがないのであるから、控訴人が六月契約の当事者でないことは明らかである。

被控訴人らは、「堀部成司は、同人個人を指すというよりは、当時設立中であった控訴人会社を意味する。」とか、「控訴人会社は六月契約を履行するために設立されたものであるから、右契約に拘束される。」旨主張するが、堀部成司が、控訴人の発起人の立場にあって、控訴人の設立準備行為の一つとして六月契約の締結をしたものならばともかく、その点について何らの主張立証もない本件においては、控訴人が、六月契約の当事者であると認める余地はなく、また、控訴人が六月契約の履行をするために設立された会社であるからといって、そのことから直ちに、控訴人が六月契約に拘束されると解すべき法律上の根拠はない。

したがって、控訴人が六月契約の効力を受ける立場にあることを前提とする被控訴人らの主張は、その余の点につき検討するまでもなく、採用できない。

C  実体関係について

(被保全権利)

1  被控訴人らの主張1の事実(競争関係)は、当事者間に争いがない。

2  同2の事実(陳述流布行為)について

(一) 同(一)のうち、控訴人及びエトリS・Aが、被控訴人ら主張の昭和五九年七月二〇日ころ、その取引先である東亜金属工業及びTDKに対し、被控訴人ら主張の「御知らせ」と題する書面を郵送したところ、その書面には、被控訴人ら主張のとおりの記載があることは、当事者間に争いがない。

被控訴人らは、「右書面は、被控訴人コンドーがライセンス契約解消後、すなわち昭和五八年一一月一日以降に製造した製品はエトリS・Aの特許、デザイン、ノウハウを使用したコピー製品だと主張し、被控訴人らによる右製品の製造・販売はエトリS・Aとの間の契約に違反する行為だとしているものである。」旨主張するのに対して、控訴人は、「右書面の記載内容は、被控訴人らが、ライセンス契約期間中に製造した製品を、右契約解消後も引続き販売しており、このことは、六月契約に反するものであるとの趣旨である。」旨主張する。

よって検討するに、《証拠省略》を総合すると、被控訴人コンドーは、六月契約締結後、ライセンス契約が解消されるまでの四か月余の間、従前に比して数倍に上るライセンス製品を製造し、これら製品を全て被控訴人ミネベアを経由して、被控訴人エヌ・エム・ビーに売却する一方、右契約解消後はいわゆるセカンド・ジェネレーションと称する自社新製品を製造し、販売していたこと、被控訴人エヌ・エム・ビーは、右「御知らせ」が郵送された昭和五九年七月二〇日当時、被控訴人コンドーの右新製品と共に、同被控訴人より購入したライセンス製品を国内、国外に販売していたことが認められ、本件「御知らせ」なる書面は、右のような状況の下において控訴人及びエトリS・Aが作成したものであるところ、成立に争いのない疎甲第五号証によれば、「御知らせ」と題する書面の全容は、原判決添附別紙(一)記載のとおりであることが認められる。

そこで、右「御知らせ」と題する書面についてみるに、同書面は、大きく分けて三つの段階から構成されており、冒頭部分より第二頁第四行(疎甲第五号証参照、以下同じ。)までの段階部分の内容は、従前の経緯と挨拶等であり、前記当事者双方の主張からみても問題となるところはない。次に、第二頁第五行より第二〇行までの段落についてみるに、「株式会社コンドーは、(中略)契約解消後もエトリS・A社の特許、デザイン、ノウハウ等の諸権利を使用する製品の販売促進活動を行い、実際にこの様な製品を販売している。」とあり、この個所においては、被控訴人コンドーが、ライセンス契約解消後も、引き続いてエトリS・A社の特許等の諸権利を使用した製品の販売をしていることを問題としているものであることが認められ、つづく「即ち……株式会社コンドーおよびその事業提携先が、これらの企業の新製品と称するファンの販売促進および販売に関して、(中略)従前エトリ製品としてカタログに掲載されていた写真を、上下を逆にしただけで株式会社コンドーの新製品としているカタログや、エトリ製品に貼付されているラベルの表示からエトリの名称だけを黒く塗りつぶしたものなどがある。」との個所も被控訴人らの販売行為について言及しているものであり、その趣旨は、前後の文意との関連から、ライセンス契約期間中に製造した製品を、ラベルを黒く塗りつぶしたり、カタログの写真を逆にしたりして、あたかも被控訴人コンドーの新製品であるかのようにして販売しているというものと解され、右段落中に、被控訴人らの製造行為について言及している記載はなく、要するに、ここでは、控訴人は、エトリの特許、デザイン、ノウハウ等の諸権利を使用する製品の「販売行為」、すなわち、被控訴人コンドーがライセンス契約期間中に製造した製品を、右契約解消後も被控訴人らが販売していることを指摘し、エトリS・Aとしては、「右行為を中止させるために必要かつ適切な手段をとる」旨告知をしているものと解するのが相当である。そして、第二頁第二一行より文末までについてみると、ここでは、「現に株式会社コンドーおよびその企業グループによって製造かつ販売されている製品」、すなわち、被控訴人コンドーがライセンス契約解消後に製造を始めた新製品について言及しており、これら製品は、「エトリS・A社の何らの保証もうけるものではない。」として、顧客の注意を喚起しているのにとどまり、当該新製品が、エトリS・Aの特許等の諸権利を使用したものであるか否かについては何も述べていないことが認められる。

してみると、この書面において、控訴人が述べているのは、被控訴人らが、ライセンス契約解消後も、ライセンス契約期間中に製造した製品の販売をしていることは、エトリS・Aとの合意に反したものである、被控訴人コンドーが現に製造し、販売している製品はエトリS・Aの保証を受けるものではない、との二点であり、被控訴人ら主張の旨の記載があるとは認められない。

したがって、「御知らせ」と題する書面についての被控訴人らの主張は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

(二) 次に、安藤電気株式会社外六社に対し、控訴人が陳述流布した内容について検討する。

《証拠省略》によれば、控訴人の従業員は、昭和五九年四月ころより同年一〇月にかけて、当時被控訴人エヌ・エム・ビーが、被控訴人コンドーのライセンス契約解消後の新製品であるファンモータの売り込みに当っていた安藤電気株式会社、三菱電気株式会社、株式会社東芝、菊水電子工業株式会社、富士ゼロックス株式会社、株式会社リコー及びファナック株式会社等の各社に対し、口頭又は電話で、大要、次のことを陳述したことが、一応認められる。

(イ) コンドーは昨年の秋にエトリとのライセンス契約が切れているのを無断で使っている。コンドーとエトリとの間でパテントの問題がある。ミネベアの子会社であるエヌ・エム・ビーが販売しているコンドーの製品は、エトリの特許にひっかかっている。コンドーの製品は危ない。年内には製造を中止させる。そうなれば供給がストップし、製品の納期でトラブルが起きる。買わないほうがいい。

(ロ) 通産省の行政指導でコンドーはファンモータが製造できなくなる。

(ハ) 特許関係の裁判でもエトリが勝っている。

右認定事実からすれば、控訴人は、前記安藤電気株式会社外六社に対し、被控訴人コンドーがライセンス契約解消後に製造している新製品を対象として、これらはエトリの特許権を侵害しているものであり、裁判でも被控訴人らは敗訴となっており、通産省の行政指導によって製造が中止になる旨を陳述流布したものと認められる。

そこで、控訴人が陳述流布したこれらの事実が真実に即したものであるか否かについて検討する。

(イ) 特許侵害の点について

《証拠省略》によれば、被控訴人コンドーがライセンス契約解消後である昭和五九年一一月一日以降製造していた新製品とは、型式記番号EP七五(三一一五PS)、EP八八(三六一〇PS)、EP一一四―二五(四七一〇PS)、EPE一一五―三八(四七一五PS)、及びEP一四五(五九一五PC)(なお、( )内はいずれも同型種の昭和五九年四月以後の型式記番号)の五種類であることが認められる。そして、《証拠省略》を総合すれば、控訴人が特許侵害されたという特許とは、日本実用新案登録第一二三三〇二〇号及び日本特許第一一五八〇〇四号の考案、発明を指すところ、

前記五種類の新製品は、

まず右考案との比較においては、同考案の必須の構成要件である、(a)かご型ロータにはその磁気回路の各側部に横方向に突出する二つの短絡カラーを設けたこと、(b)これ等のカラーとファンの容匣の軸との間にボールベアリングを嵌合したこと、の構成を採用しておらず、(a)'シリンダ状電動機ロータの中央孔内周面にボールベアリング保持管が接着一体化されており、(b)'このボールベアリング保持管と中央軸との間にベアリングを嵌合しているものであり、右考案が不要としたボールベアリング保持管がそのまま残っており、それゆえ、電動機ロータの軸気回路中央孔内周部と中央軸外周部とはボールベアリング保持管により隔離された状態にあること、右構成においては、右考案の技術的課題であるボールベアリング及び中央軸の径との電動機ロータの磁気回路断面積との不利益な相関関係の除去がなし得ないものであって、要するに、新製品はいずれも右考案の必須の構成要件を具備せず、したがって右考案により得られる作用効果を奏するものではないこと、

次に、前記発明との比較においては、新製品の外部覆い板は、いずれも冷却ファン内部の軸状通路を封鎖して外部からの塵埃の侵入を防止するためのカバープレートにすぎないものであるのに対し、同発明の外部覆い板は、良好な熱伝導性を有する材料で作られ、かつハブに設けた鎖錠用凹部に弾性係合する弾性放射状舌状物のような緊締手段により回転子の環状端部に圧接し、回転子の有する熱を外部に放出するよう構成されたもので、新製品の外部覆い板とは目的、構成及び作用効果を異にする部材であり、したがって、新製品には、右発明の「回転子の有する熱を放出する」ための機構はなく、右発明の有する「軸受けの長時間耐久性を向上させることにより平型ファンの長時間耐久性を向上させる」との作用効果を奏するものではないことと、

が一応認められる。

もっとも、成立に争いのない疎乙第三六号証によれば、コルサコフ鑑定人はその鑑定書において、被控訴人コンドーの新製品は、同社がライセンス契約期間中にエトリS・Aの特許等の諸権利を使用して製造していた製品と事実上同一の性質のものであると結論していることが認められる(Question 15, Page 13,訳文第一一四頁)が、新製品がいかなる理由によって前記考案及び発明の権利を侵害しているかの具体的な記載はない上、右鑑定書のなかには、「新製品は、熱発散用のキャップを取りはずしているのでエトリの特許を使用していない。」「短絡環を通しての連結についてはエトリの特許であるため使用されていない。」と判断している個所もある(Question 15, Page12,訳文第一一二頁)のであるから、右鑑定の結論のみをもって前記認定を左右することはできず、他にこれを覆すに足る疎明資料はない。

してみると、被控訴人コンドーがライセンス契約解消後製造している新製品は、いずれも控訴人が特許侵害を主張する考案及び発明の技術的範囲に属さないものであると認められるのであって、新製品がエトリの特許権を侵害しているものであるとする控訴人の前記陳述は虚偽であるといわざるを得ない。

(ロ) 通産省の行政指導について

《証拠省略》によれば、通産省が、被控訴人コンドーの新製品について製造を中止させる行政指導を行ったことは全くなかったことが認められるから、この点における控訴人の陳述流布した内容も虚偽であるといわざるを得ない。

(ハ) 裁判の勝敗について

本件全疎明資料によるも、エトリ側と被控訴人ら側との間に生じていた訴訟において、エトリ側が勝訴していたことを認め得るものはなく、かえって、《証拠省略》によれば、エトリ側と被控訴人ら側の、英国及び米国における訴訟は、昭和六〇年当時に至っても、未だ実体審理にすら入っていなかったことが認められる。

控訴人は、右の点について、当時すでにコルサコフ鑑定人による鑑定の最終報告書(疎乙第三六号証)が提出されており、これによると被控訴人らによる契約違反等の事実が詳細に認定されていたので、裁判についての控訴人側の主観的な見通しを述べたものであると主張するが、裁判に勝訴することと、自己に有利な鑑定結果が出たこととはおよそ異なることである上、前掲疎乙第三六号証によれば、コルサコフ鑑定の最終報告書が提出されたのは、控訴人の安藤電気株式会社外六社に対する陳述がなされた昭和五九年四月から同年一〇月までよりも後の昭和六〇年九月六日であることが認められるから、この点における控訴人の陳述流布した内容もまた虚偽であるといわざるを得ない。

(三) 同(三)のうち、控訴人が、昭和六〇年四月一日ころ、新電元工業株式会社に対し、事情説明書を提出したこと、右書面には、「近時、エトリを一方当事者、ミネベア等を他方当事者とする紛争が生じておりますが、これは、ミネベア等がエトリのコピー製品と目すべきファンを製造販売していることに起因するものであり、弊社は、かかる行為が、公正競争のルールおよびミネベア等がエトリに対してなした約束に違反するものであると考えるものです。」「この契約(六月契約)においてミネベア等はエトリのデザイン、ノウハウを使用したコピー製品の製造・販売はしない旨、約束しております。従って、前記の様なミネベア等の行為は、この契約に違反するものであります。」「既に、裁判所によって選任された者をも含む最高レベルの技術的権威が、いくつかの技術報告書を作成しており、これらの報告書は、ミネベア等が、エトリの特許、ノウハウおよびデザインを使用しているとしております。」等の記載があることは、当事者間に争いがない。

右事実によれば、前記書面は、ライセンス契約解消後である昭和五八年一一月一日以降、被控訴人コンドーは、エトリS・Aのコピー製品を製造・販売しているものであり、このことは、エトリS・Aのデザイン、ノウハウを使用したコピー製品の製造・販売をしないとした六月契約に違反する行為であると述べているもので、ここで、控訴人が、コピー製品と指摘しているのは、エトリS・Aの「デザイン、ノウハウ」を使用した製品のことであることが認められ、「特許権」の不正使用にまで言及しているものとは認められない。なお、右書面中に、「技術報告書には、ミネベア等が、エトリの特許、ノウハウおよびデザインを使用しているとしております。」とある点も、前後の記載からみると、被控訴人らが製造・販売している製品は、右にいうコピー製品であることが技術的権威者によって証明されているという趣旨から、技術報告書の内容を記載しているにとどまるもので、被控訴人らによる特許の不正使用を指摘しているものとは認められない。

そこで、前記書面において、控訴人が指摘した(イ)「ライセンス契約解消後、被控訴人が製造・販売している新製品は、エトリS・Aのデザイン、ノウハウを使用したコピー製品であること」、(ロ)「当時既に、裁判所において選任された者の技術報告書において、ミネベア等が、エトリの特許、ノウハウ及びデザインを使用しているとされていたこと」が、虚偽であるか否かについて検討する。

(イ) デザインの使用について

《証拠省略》によれば、昭和五八年六月七日、エトリS・A側と被控訴人ミネベア等との間で締結された、いわゆる六月契約の第4条a項では、「一九八三年一〇月三一日以降、ミネベアは自ら又はその経営支配している子会社をして……エトリ製品と同一のデザイン……を使用した製品を製造してはならない」と規定し、他方、同契約第3条a項において、六月契約後直ちに、被控訴人コンドーが東京契約及びパリ契約の対象とされているエトリの製品の代わりとなる新製品を準備することを認め、同条b項において、一〇月三一日以前においては、右新製品が、東京契約及びパリ契約にいうエトリ製品と同一、類似又は競合する製品である場合は、その販売又は販売促進をしてはならない旨規定していることが認められる。

右各条項の文言からすると、一〇月三一日までは、第3条b項によって、エトリ製品と同一、類似又は競合する製品の販売又は販売促進活動は禁じられているのに対し、一一月一日以降は、類似又は競合する製品についての制約はなくなり、第4条a項によって、同一のデザインを使用した製品の製造のみが禁止されたにとどまると解されるのであって、要するに、右第4条a項は、「同一のデザイン」のもののみを対象とし、類似のデザインについては禁止の対象としていないものと解せられる。

そこで、被控訴人コンドーが製造する新製品が、エトリ製品(ここにいうエトリ製品とは、被控訴人コンドーがライセンス契約期間中に製造していた、いわゆるライセンス製品を指す。)と全く同一のデザインであるか否かについてみるに、被控訴人コンドーが、ライセンス契約解消後である昭和五九年一一月一日以降に製造した新製品とは、型式記番号EP七五(三一一五PS)、EP八八(三六一〇PS)、EP一一四―二五(四七一〇PS)、EP一一五―三八(四七一五PS)、及びEP一四五(五九一五PC)の五種類であることは前記(二)(イ)で認定したとおりであるところ、《証拠省略》によれば、次の事実が、一応認められる。

(あ) 銘板

製品の背面中央部に接着してある銘板は、エトリ製品では、真円形状であるのに対し、新製品のそれはトラック形状である。

(い) スポーク

エトリ製品では、四本のスポークが九〇度ごとに等分に配置してあるのに対し、新製品では三本であり、その中にはスポークが一二〇度ごとの等分に配置されていないものもある。

(う) 回転方向及び風方向の表示

エトリ製品では、表示部分のスペースが大きく、各矢印のほかに、「ROTATION」及び「AIR」の文字があるのに対し、新製品では、表示部分が小さく、かつ、表示は矢印のみで文字の表示がない。

(え) 羽根の外周縁の角部の形状

エトリ製品では鋭角であるのに対し、新製品のうち、EP一四五―三八を除いたその余のものでは、丸みがつけられている。

(お) ケーシングの四角の形状

エトリ製品では、直線で切り落とされた形状であるのに対し、新製品のうち、EP一四五―三八を除いたその余のものでは、円弧の形状を成している。

(か) アース取付部

エトリ製品では出張りがないのに対し、新製品のうち、EP一四五―三八を除いたその余の製品では、出張りがある。

右認定事実からすれば、これらの形状に相違のある部位は、いずれもファンモータの要所であり、容易に当業者の目につきやすいところであるから、エトリ製品と新製品とは、要部においてデザインに相違があり、これが同一であるとは認められない。

(ロ) ノウハウの使用について

控訴人が主張するエトリ製品のノウハウがいかなるものをいうのか控訴人の主張からは必ずしも明らかでなく、本件全疎明資料によるも、右にいう「ノウハウ」の存在を窺い知るに足るものは見当らない。

もっとも、前掲疎乙第三六号証によれば、コルサコフ鑑定人は、鑑定書において、「エトリ製品と新製品は、事実上同一の性質のものであり、相違点は二次的性質のものにすぎない。」と結論していることが認められるが、その結論に至る理由中において、新製品のいかなる点にエトリ製品のノウハウが使用されているかについては何ら明確な記載がなく、かえって、《証拠省略》によれば、東京契約及びパリ契約にしたがって、エトリ側が被控訴人コンドーらに提供したファンモータについての技術情報は、いずれもすでに公知のもので、ノウハウとはいえないものであったことが認められるから、疎乙第三六号証の右鑑定書の結論をもって、直ちに、新製品がエトリ製品のノウハウを使用したものであると認めることはできない。

(ハ) 技術報告書について

控訴人は、事情説明書において指摘した技術報告書とは、証拠として裁判所に提出されたコルサコフ鑑定人の鑑定書(疎乙第三六号証)を指すものであり、この鑑定書では、「ミネベア等の製品はエトリ製品の明白なコピーであり、当事者の契約に違反している」と断定しているから、控訴人が事情説明書に記載したことは事実に即したものである旨主張する。しかしながら、事情説明書が新電元工業株式会社に提示されたのは昭和六〇年四月一日ころであることは当事者間に争いのないところであり、コルサコフ鑑定人が右鑑定書を完成させたのは、前記(二)(ハ)で認定のとおり、昭和六〇年九月六日のことであるから、控訴人の右主張は首肯し得るものではない。

(ニ) 以上のとおりで、控訴人が、事情説明書に指摘した、前記の(イ)「ライセンス契約解消後、被控訴人が製造・販売している新製品は、エトリS・Aのデザイン、ノウハウを使用したコピー製品であること」、(ロ)「当時既に、裁判所において選任された者の技術報告書において、ミネベア等が、エトリの特許、ノウハウ及びデザインを使用しているとされていたこと」はいずれも、虚偽の事実の陳述であったといわざるを得ない。

(四) 同(四)のうち、控訴人が、昭和五九年七月一〇日、通産省産業機械課長に対し、同月九日付で作成した文書(疎甲第八六号証)を提出するとともに、口頭でもその記載内容と同趣旨の主張をしたこと、その文書には、「国際的な特許事務所によってなされた技術的分析及び評価によれば、ミネベア、コンドー、エヌ・エム・ビーの「新製品」と称するものは、実際単なるエトリS・Aの製品日の盲従的なコピー製品であり、彼らの製造方法は、エトリS・Aのデザイン、ノウハウ及び「特許」を使用しており、かつ、一九八三年一〇月に本来エトリS・Aに返却されるべきであったライセンス時代にコンドーが使っていた金型工具等を使って製造されたものである。」「ミネベア、エヌ・エム・ビー、コンドーは、直接的もしくは間接的にも、あるいは全部もしくは一部にせよ、エトリ製品の「特許」、デザイン、ノウハウを使用した製品の製造及び販売を直ちに中止し、誠意をもって六月契約に厳重に従うことを要望する。」等の記載があることはいずれも当事者間に争いがない。

控訴人の主張によれば、右文書にいう「国際的な特許事務所によってなされた技術的分析及び評価」とは、コルサコフ鑑定人による予備報告書(疎乙第二三号証)を指すというのであるが、《証拠省略》によれば、パリの控訴裁判所のコルサコフ鑑定人によって右予備報告書が作成されたのは、控訴人が通産省に前記文書を提出した時よりも後である昭和五九年九月四日であることが認められる。そうすれば、控訴人が、前記文書に、「国際的な特許事務所による技術分析、評価によれば、被控訴人らの新製品は、エトリS・Aのデザイン、ノウハウ及び特許を使用して製造した盲従的なコピー製品であり、エトリS・Aに返却されるべき金型工具等を使って製造されたものであるとされた」旨記載したのは真実に反した、虚偽の事実の陳述であったといわざるを得ない。

3  控訴人が、前記2(二)ないし(四)に判示の虚偽を事実を陳述流布するに当たり、その内容が真実に反したものであることを知っていた、然らずとするも、知らなかったことについて過失があったことは、右2(二)ないし(四)の項に摘示の各疎明資料によって、一応これを認めることができる。

4  次に、被控訴人らが蒙った損害について検討する。

《証拠省略》を総合すると、一応次の事実が認められる。

(一) 財産的損害

被控訴人エヌ・エム・ビーは、ミネベアグループの国内一手販売業者として、昭和五九年当時、株式会社東芝、三菱電機株式会社、富士ゼロックス株式会社及び株式会社リコーの四社に対し、競争会社の山洋電機、日本サーボ、控訴人エトリ・ジャパンなどと競り合いながら、ファンモータ(新製品)の新規売り込みを図っていたが、客先要求事項の検討、図面及びサンプル提出の段階を終わって、サンプルテストの結果も良好とのことで、受注寸前の状況にあった。当時、もし右四社との間に受注が成立すれば、その取り引き高は、次の通り、一ヶ月で合計八九〇〇万円(五万八〇〇〇台)になり、その取り引きは、少なくとも二年間は継続するものであった。

株式会社東芝 一八〇〇万円

三菱電気株式会社 二五〇〇万円

富士ゼロックス株式会社 一六〇〇万円

株式会社リコー 三〇〇〇万円

合計 八九〇〇万円

ところが、前記2(二)ないし(四)に認定の、控訴人による虚偽の事実の陳述流布行為により、売り込み先に、ミネベアグループの、ビジネス全体に対する取り組み姿勢、ファンモータ製造の技術力、特に製品の安定供給力について、不安が生じ、被控訴人らの信用が損なわれ、そのため、右四社に対する前記ファンモータの売り込みは不成功に終わった。その結果、被控訴人各社は、売り込みが成功して契約が成立したならば得られたであろう利益を喪失することとなった。

この得べかりし利益を算定すると、その額は次のとおりとなる。

(イ) ファンモータの契約不成立による分

予想売り上げ総額 八九〇〇万円×一二か月×二年=二一億三六〇〇万円

販売利益率 二四・四%

なお、この利益率は、予想される売り上げ高から材料費や運賃等の変動費用のみを控除するいわゆる限界利益率を一応是認したものである。この認定を左右すべき疎明資料は見当たらない。

予想利益総額 二一億三六〇〇万円×二四・四%=五億二一一八万円

右利益率における被控訴人らの分配分と損害額

被控訴人ミネベア 二一億三六〇〇万円×〇・二%≒四二七万円

同コンドー

同右×一六・五%≒三億五二四四万円

同エヌ・エム・ビー

同右×七・七%≒一億六四四七万円

(ロ) ボールベアリング及び部品の売り上げができなかった分

前記ファンモータには、一台につき二個のボールベアリングとその他ファンケース、モータ部品、シャフト等の付属部品が使用されており、もしファンモータの契約が成立しておれば、その取り引き量に相当するボールベアリング及び右付属部品を、被控訴人ミネベアは、ボールベアリングについては被控訴人エヌ・エム・ビーを経由して、その他の付属部品については直接、ファンモータを製造する被控訴人コンドーに売り渡して利益を得ることができたにもかかわらず、前記の通り、契約が不成立となったため、その利益を得ることができなかった。その額は、

ボールベアリングについては、

ボールベアリング一個当たりの利益 八〇・〇円

(前記のいわゆる限界利益率を根拠とする利益金額)

右利益の分配分は、

被控訴人ミネベア 七四・五円

被控訴人エヌ・エム・ビー 五・五円

であったので、

損害額は、

被控訴人ミネベア

七四・五円×二個×五万八〇〇〇台×二四か月≒二億〇七四〇万円

被控訴人エヌ・エム・ビー

五・五円×二個×五万八〇〇〇台×二四か月≒一五三一万円

となり、

その他の付属部品については、

売り渡し見込総額 四億六五〇五万円

根拠

ファンモータの販売価格中の部品、原材料の割合 七〇・六%

そのうちの被控訴人ミネベア製造品の割合 四九・六%

この売り上げ予想総額 七億四三四五万円

八九〇〇万円×七〇・六%×四九・三%×二四か月≒七億四三四五万円

このうちボールベアリングの分 二億七八四〇万円

一〇〇円(単価)×一一六〇〇〇個×二四か月≒二億七八四〇万円

これを控除した金額 四億六五〇五万円

被控訴人ミネベアの利益率 五五%

(前記のいわゆる限界利益率を根拠とする利益率)

被控訴人ミネベアの損害額

四億六五〇五万円×五五%≒二億五五七八万円

となる。

(ハ) 以上の損害額を合計すると、

被控訴人ミネベアの損害額の合計 四億六七四五万円

同 エヌ・エム・ビーの損害額の合計 一億七九七八万円

同 コンドーの損害額の合計 三億五二四四万円

となる。

以上の事実が、一応認められる。

(二) 非財産的損害

控訴人の前記虚偽事実の陳述流布行為により、被控訴人ミネベアは精密機械部品の大手供給業者として、被控訴人コンドーはミネベアグループに属する専門メーカーとして、被控訴人エヌ・エム・ビーはミネベアグループの国内一手販売業者として、それぞれ、ビジネス全体に対する取り組み姿勢、ファンモータ製造の技術力とその安定供給力について顧客先に不安を抱かせ、その信用を傷つけられた。そのため、被控訴人側では、この信用回復のために、ファンモータの販売活動先や顧客先に対し、安定供給を保証するための保証書を提出したり、資料を用意して説明に回ったり、工場を案内して、生産状況、工程、ファンモータの構造の説明をするなど、かなりの時間と労力を費やしたけれども、株式会社東芝、三菱電機株式会社、富士ゼロックス株式会社、株式会社リコーの四社に対するファンモータ(新製品)の新規の売り込みは不成功に終わった。しかしながら、他方、安藤電気株式会社に対しては新規の売り込みが成功しており、TDK株式会社、東亜金属工業株式会社など、控訴人の前記陳述流布行為以前から被控訴人側においてファンモータ(ライセンス製品ないし新製品)を販売していた顧客先に対しては、その後も新製品について従来どおり商談が成立しているほか、富士ゼロックス株式会社からは、被控訴人側の前記説明を了解する旨の応答を得ている。

右認定の事実に、控訴人による虚偽の事実の陳述流布行為の方法、内容、時期、範囲、被控訴人らの営業規模、財産的損害、相互の関係その他諸般の事情を総合すれば、被控訴人らが、控訴人の本件虚偽事実の陳述流布行為によって信用を損なわれたことによる非財産的損害を賠償すべき金銭の額は、各被控訴人についてそれぞれ三〇〇万円と認めるのが相当である。

《証拠省略》には、この額と異なる金額が供述、記載されているが、右の事由に照らして、そのまま採用することはできない。

5 (保全の必要性)

《証拠省略》によれば、次の事実が、一応認められる。

控訴人は、昭和五八年六月一一日、フランスの会社エトリS・Aの日本市場への進出のために、資本金三五〇万円をもって設立された株式会社であって、コンピュータ、コピー機器、電子機器、電気製品用の冷却用ファン等の製造、販売等を目的としており、昭和六〇年九月一九日、資本金は一〇〇〇万円に変更されている。

控訴人は、商工組合中央金庫から約三億五〇〇〇万円、第一勧業銀行から約七〇〇〇万円、クレディ・リヨネ銀行から約一億五〇〇〇万円等の借入があり、主要な資産としては、機械設備はその代金の長期分割払いの担保とされているため、原判決別紙物件目録記載の三筆の土地とその地上の工場があるのみで、その評価額は約三億二〇〇〇万円であり、土地については昭和五八年九月、建物については同年一一月、商工組合中央金庫のために極度額五億円の根抵当権が設定されている。なお、その後、本件債権仮差押申請当時には、控訴人は、昭和六一年六月三日供託にかかる原判決別紙仮差押債権目録記載の一億五〇〇〇万円の供託金取戻請求権を有していた。

控訴人は、その製品を、国内向けの販路拡張に努めると共に、主としてエトリS・A(前記フランスの親会社)、エトリI・M・C(アメリカの会社)に販売しており、昭和五九年五月期の決算では大幅な欠損を計上し、同年一二月頃は一億三〇〇〇万円内外の月商に過ぎなかった。

このように、控訴人は、その資本金、資産に比して多額の負債を抱えている上、営業の成績は不振であり、しかも、昭和五九年一〇月頃にはその営業本部長、工場長が退職するなど、経営面にも不安定なところがあって、いつ倒産に至るかも知れない状態にある。

このような状態の下においては、被控訴人らの控訴人に対する前記3に認定の損害賠償請求権のうち、それぞれ本件各仮差押決定書記載の債権(合計は各一億五〇〇〇万円)につき、その執行を保全するため、控訴人の本件不動産、動産、債権の各財産をそれぞれ仮に差押える必要がある。

6 以上のとおり、控訴人は、故意又は過失により、競争関係にある被控訴人らの営業上の信用を害する、前記C2(二)ないし(四)記載(被控訴人ら主張の「お知らせ」と題する書面の分を除いたもの)の虚偽の事実を陳述、流布し、これにより、被控訴人ミネベアに対し合計四億七〇四五万円、被控訴人エヌ・エム・ビーに対し合計一億八二七八万円、被控訴人コンドーに対し合計三億五五四四万円の損害を与えたものであるから、各被保全権利の存在及び保全の必要性について、一応これを認めることができるものである。

D  よって、本件各仮差押決定をいずれも正当として認可した原判決は、結論において相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については、民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤井俊彦 裁判官 竹田稔 岩田嘉彦)

〈以下省略〉

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